大阪高等裁判所 昭和44年(う)702号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕原判決挙示の各証拠を総合すると、過失の点をも含め、原判示事実は十分にこれを認めることができる。すなわち右の証拠を総合すると、被告人は、昭和四二年三月一二日午前零時四〇分ごろ、普通乗用自動車(四〇年式ダットサン大阪五あ二二四一号)を運転し、大阪市阿倍野区西田辺町一丁目一三番地より北約一五〇メートル手前の市道(苗代長居線、巾員八メートル強)上を、時速約三〇キロメートルで、南進中、その前方を同一方向に被害者明神勲運転の自動二輪車(旧二種原付(西)一一八五六号)が、道路左側をセンターラインに近接して蛇行状態で南進しているのを認めた。そこで、これを追越そうと考え、その背後を、約四ないし五メートルほどの間隔を保つて、約五〇メートルぐらい追尾しながら、警音機を二個ずつ、三、四回鳴らしてその避議を求めたが、被害者は依然として蛇行運転を繰り返し、容易にこれに応ずる気配が認められなかつた。
ところで、被告人が警音機を鳴らしおわつた直後、被害者が、センターラインより一たん左へ一メートルぐらい寄つたのを認めたので、被告人は、被害者両において避譲を開始したものと軽信し、同車との間隔を約一メートルに保持して、同車の右側を安全に追い越し得るものと即断し、その後の被害者の動静に注視せず直ちに時速を四〇キロメートルぐらいに加速し、右にハンドルを切りつつ、原判示の場所でセンターラインの右側に出た。ところが被害者は被告人のかかる追い越しに気付かず、かえつてセンターラインの左約一メートル寄りから、さらにセンターライン寄りに右に蛇行したため、左側部をセンターラインに接して追い越し並進中の被告人車両の左側後部ドア附近(自動車左側前方から二、六〇メートル後部、高さ〇、九メートルの位置)に、自動二輪車右ハンドル右端部が接触、被害者をその附近に転倒せしめ、同人に対し、原判決判示の如き傷害を負わせたことが認められ、また被害者の右蛇行運転は、当時同人が酒気を帯びながら運転していたことによるものであることが明らかである。これに反する原審証人明神勲の供述部分、被告人の原審公判および司法警察員に対する各供述部分はにわかに採用しない。してみると、本件事故は、被害者明神勲が後続車両に留意しないで、センターライン附近を蛇行進行した酒気帯び運転に、その一因のあることはもちろんであるが、自動車運転者である被告人においても、先行車が異常な蛇行運転を繰り返えしているのであるから、かかる運転者が時に不測の行動に出ることを十分配慮し、これを追い越そうとするには特に先行車の動静に十分留意しつつ、安全な間隔を保つて追い越すなど、危険の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務を有することはもちろんである。しかるに、被告人は、前記のように警音機を鳴らしおわつた直後、被害者が一たん一メートルぐらいセンターラインから左寄りに離れたからというだけで、その後における同人の動静を引き続き注視せず、同人が自己の警音機の音により避譲したものと軽信し、しかもこの場合先行車との安全な間隔とはいえない僅か一メートルぐらいの間隔しか見込まないで(右側道路巾員は一、四九メートルであるから、もつとも大巾に間隔を保つことができる。)、その右側を追い越そうとして本件事故を起したのであるから、被告人にも右注意義務を尽さなかつた業務上の過失があつたものというべきである。(西尾貢一 互谷末雄 藪田康雄)